これで負けてもしょうがない
「岩瀬が打たれて負けたんならしょうがないよ。」
中日ドラゴンズの落合監督(当時)は、信頼を寄せる絶対的リリーフ投手の岩瀬を送り出して負けたとき、このように話していたとか。
あるとき、勝てる見込みがほとんどないと思われた事件を受任しました。それでも勝つために、手あたり次第文献を調べ、裁判例にあたり、依頼者から何度も話を聞き、ほかの弁護士の意見を聞き、裁判官と議論し…とにかく尽力しました。
裁判が進み、最終準備書面(裁判の最後に提出する総括的な書面のことです。)を提出する段になりました。私が書いた最終準備書面を読んだ依頼者は、こう言いました。
「この書面を出して、それで負けたんならしょうがないよ。」
そして、「先生、ありがとう。」とも。
一瀬 智弘
アルフレッド・マーシャル (1842-1924) という著名な経済学者は、ケンブリッジ大学の教授に就任する際、「冷静な頭脳と温かい心をもって、社会的苦悩に立ち向かおう。」と諭しました。「冷静な頭脳と温かい心」(Cool Head but Warm Heart) は、経済学者のみならず、法曹のあるべき理想の姿でもあると思います。心のひだに人間のぬくもりを育みながら、冷静沈着に戦略を練る。私はそのような弁護士に情景の念を抱きます。

